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東京高等裁判所 昭和41年(う)2948号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕所論は、本件において、被告人らに対する本件昭和四一年一〇月一九日付起訴状の謄本(前記原判示第二の詐欺の事実に対応する詐欺被告事件)は、原審第一回公判期日までに被告人に送達されないまま公判期日が開かれ、右事実に関する証拠調がなされたものであつて、かような起訴状謄本の送達前になされた公判手続は全部違法であり、かかる場合には改めて第一回公判期日における起訴状の朗読等の冒頭手続を行なわなければならず、形式的な公判手続の更新によつてこれが違法は治癒されるものではないと解すべきところ、昭和四一年一一月一二日の原審第三回公判調書(控訴趣意書中に第二回公判調書とあるのは第三回公判調書の誤記と認める)の記載によれば、「被告人松永三男に対し、昭和四一年一〇月一九日付起訴状の謄本と同被告人に第一回公判期日において送達未了であることが判明したので、公判手続を更新する。」旨の記載がなされており原審はただ単なる形式的な公判手続の更新をしたのみで、第一回公判期日における冒頭手続をした形跡は全然ないから、前記の違法は治癒されず、前記の詐欺の事実についての有罪証拠の全部が適法な証拠調のなされていない証拠であつて、かかる訴訟手続による原判決は違法たるを免れないと主張する。

よつて案ずるのに、本件記録によると、所論昭和四一年一〇月一九日付起訴状の謄本が原審第一回公判期日前に被告人に送達されていなかつたこと、同期日に同起訴状記載の詐欺の公訴事実(原判示第二の事実に相当する)に関する証拠調がなされたこと、原審第三回公判調書に所論のような記載がなされていること、はいずれも所論のとおりであり、また原審第一回公判期日において取調べられた証拠(しかし、後記のとおり、これらの証拠は公判手続の更新に際して取調べられたものである)が原判示第二の事実に対応する証拠として証拠の標目のうちに挙示されていることは記録上明らかである。ところで、公訴の提起があつたときは遅滞なく起訴状謄本を被告人に送達することを要することは刑事訴訟法第二七一条第一項の明定するところであるから、本件において所論詐欺の事実について起訴状謄本が被告人に送達されないまま原審第一回公判期日が開かれ、冒頭手続、証拠調手続を含む公判手続がなされた点において、原審の訴訟手続には被告人に関して法令違反があることはまことに所論のとおりである。そこで本件において右の違法がいかなる影響を及ぼすものであるかを検討することとする。ところでまず原審第一回公判調書の記載を見ると、原審裁判官は、公判審理に先き立ち、被告人を含めた原審の被告人全員に対し、昭和四一年一〇月八日付および(所論)同月一九日付起訴状謄本を受取つたかと尋ね、これに対し被告人を含む全員が受取りましたと答え、これに引続き被告事件に対する陳述、証拠調等の手続がなされていること(そして右詐欺の事実に関する書証についてもすべて被告人は同意し、また証拠物については何ら異議の申立がなされることなくその取調がなされている)被告人に対する所論起訴状謄本の不送達についてまたこれに基く法律上の瑕疵については、被告人からもまた被告人の原審弁護人白石信明(同弁護人は当時の弁護人でもある)からも何ら異議を申立てた形跡のないこと、がそれぞれ明らかである。また所論起訴状記載の公訴事実は被告人および原審相被告人松永静男、同加藤鉄夫の三名に共通であるところ、記録によれば被告人は丸松急行株式会社の代表取締役松永静男はその専務取締役、加藤鉄夫はその常務取締役であることが認められ、また被告人の原審弁護人白石信明は同時に右原審相被告人二名の原審弁護人でもあつたことが認められるが、これらの事実に徴すると、前記のとおり被告人に対しては実際には原審第一回公判期日の前に所論起訴状謄本の送達はなされていなかつたのであるが、原審相被告人松永静男、同加藤鉄夫に対する右起訴状の謄本は送達されていたので、被告人は原審弁護人と共に、少なくとも同起訴状の記載内容を充分了知して第一回公判期日に臨んだものであり、またその防禦活動にも別段の支障はなかつたものと認めるのが相当である。次に、記録によればその後刑事訴訟法第二七一条第二項所定の公訴の提起後二カ月以内である昭和四一年一一月二日に被告人に対し所論起訴状謄本が送達されたことが認められ(記録第五〇〇丁、なお同第五〇一丁参照)、またその後である同月一二日の原審第三回公判期日において、前記のとおり公判手続の更新の手続がとられたものであることが認められる。ところで起訴状謄本が被告人に送達されないまま公判手続が進められた場合は法定の公判手続の更新事由に当らないから、この手続の違法を治癒させるために公判手続の更新をすることは必らずしも適切な措置とはいい難いのであるが、刑事訴訟規則第二一三条の二によれば公判手続の更新に際しては起訴状の朗読等の冒頭手続および更新前の公判調書、更新前の公判期日において取調べた書面または物の証拠調がなされるのであり、原審第三回公判調書の記載によれば、原審第三回公判期日においても公判手続の更新に際してこれらすべての手続が履践されたことが認められ、これに対して被告人または原審弁護人から何等異議を申立てた形跡は認められないから(なお、公判手続の更新をした場合に、公判調書にはその旨を記載すれば足り、更新に際し取調べた更新前の公判調書、証拠書類、証拠物等について証拠の標目、その取調の順序を記載する必要のないことについては刑事訴訟規則第四四条第一項第三二号、最高裁判所昭和二九年七月一四日決定最高刑集第八巻第七号一一〇八頁以下参照)、結局原審は改めて所論起訴状謄本を送達した後原審第三回公判期日において公判手続の更新手続を行なうことにより、実質的には所論のいうような第一回公判期日における起訴状朗読等の冒頭手続、証拠調等の手続を正規にやり直したと同一の結果に帰するのであり、これに対し被告人または原審弁護人から何ら異議を申立てた形跡のないことは前述のとおりである。更に証拠関係については、原審第三回公判期日における公判手続の更新に際し、被告人は被告事件に対する陳述として原審第一回公判調書記載の陳述と同一の陳述をしたことが認められる(刑事訴訟規則第四四条第一項第三二号イ参照)ほか、前記のとおり原審第一回公判期日において全部同意に基いて取調べた書証、異議なく取調べた証拠物および原審第一回公判調書を更に取調べるに当つても、被告人または原審弁護人から何ら異議を申立てた形跡は認められないから、これら各証拠はその証拠能力に欠けるところはないと解するのが相当である。以上のとおりであつて、これまで説示してきた諸事情に徴すると、前記の起訴状謄本の未送達のまま第一回公判手続を行つたことによる法律上の瑕疵は、少くとも判決に影響を及ぼさないものとなつたものと解するのが相当であり、また所論原判決挙示の証拠についても適法な証拠調がなされていることに帰するから、本論旨もまた理由がない。(石井文治 山田鷹之助 渡辺達夫)

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